島暮らしのよろこび、つくり手としてのこだわり

吉川自然農園/有機農家

吉川努さん

2016.11.15

以前、神奈川県でシェフをしていた吉川さんは、震災をきっかけに「自然の中で暮らす」ことを選びました。都市部からの移住支援制度「地域おこし協力隊」を経て、2014年この大三島に移住。有機農家として第二の人生のスタートを切りました。そんな吉川さんが魅了されているのは「昔ながらの伝統野菜や在来種を育てる」ということ。
 
「苦労してますよ」と口では言うのに、なぜかとっても楽しそう。吉川さんのワクワクの種(たね)は、一体どこにあるのでしょうか。
 
――伝統野菜といえば、京都の賀茂なすや東京の練馬大根などが思い浮かびますが、「在来種」とはどういう野菜なのでしょうか?
 
在来種という言葉はなかなか普段の生活で耳にすることはないと思いますが、その土地で大切に受け継がれてきた「種(たね)」を使った野菜のことです。伝統野菜や固定種と呼ばれることもあります。
 
ちなみに、僕たちが普段ホームセンターなどで見かける野菜の種には、2種類あるんですよ。
 
――どんな種類があるのでしょう?
 
大きく分けると、「F1種」と「在来種」です。
 
「F1種」とは、収穫できる量を増やしたり、病気に強く改良したりする目的で人工的に掛け合わされたものです。育てる側からすれば扱いやすく便利ではあるのですが、その反面、種ができても次の世代からは品質や味のばらつきが大きく、実質的に種とりはできないんですよ。簡単に言うと「子孫を残せない」種なんです。みなさんが食べている野菜のほぼ9割以上が、そういったF1種です。
 
「在来種」は、そういった交配をしていない「子孫を残せる」種です。古くから人の手によって選別されて守り伝えられたもので、その地域の風土や気候にあった、独自の特徴が出るんですよ。
 

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種とりを待つ野菜たち。ズッキーニもゴーヤも、熟れると最終的に黄色くなる。そういった変化を感じるのも楽しみだそう。

 

――吉川さんの畑には、珍しい野菜がたくさんありますね。

 
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面白いでしょう?これは沖縄純白ゴーヤ。肉厚でみずみずしいんです。苦みが少ないので、薄くスライスしてサラダにしてもおいしいですよ。おお、これはすごくいい出来!
 
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この美しい模様は「リスターダデカンシア」という、スイス生まれのなすです。皮はやや硬めですが、果肉はクリーミーで加熱するとトロトロになりますよ。グリルやフライにも向いていますね。
 
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真っ白ですが、これもそろそろ食べられます。「クリームピーマン」という品種で、果肉は柔らかくて甘いんです。
 
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冬野菜はこちら(上写真)。中でも感動されるのは「キクマロ」という春菊ですね。春菊特有と思われている苦味がほとんどないんですよ。爽やかさの奥に、ほんのり風味としての苦味が漂う感じは――そう、クレソンに似ています。お客さんからも「春菊に対する見方が変わりました!」とわざわざ言ってもらえるほどなんです。

 

F1種は、味の改良も兼ねているはずなんですが、固定種の方がおいしいと感じる野菜も色々あって、僕自身も新鮮な驚きでした。

 

――シェフをされていたこともあって、鋭い味覚を持たれていることと思いますが、固定種にこだわるのは「味」が決め手だったのでしょうか?

 

いいえ。一番の理由は、「僕が楽しいから!」です。

 

固定種は環境の変化に敏感だったり、他の品種と受粉しないように気を配る必要があったり、そもそも通常(F1種)のセオリーが通用しなかったりして、苦労しっぱなしといっても過言ではありません。

 

でも、そうやって自分が苦労して育てた野菜の子孫にまた来年会えるんですよ。F1種は収穫したらそれでお別れですが、きっと野菜だって、植物として命を繋いでいきたいはずなんです。だから在来種を育てていると、「こいつの子どもにまた会えるのか」と、つい笑顔になってしまいます。

 

みなさんもやってみませんか、楽しいですよ。島の人も僕から買ってくれるのですが、いつも僕は「買わなくていいから、つくって」って言うんです。(笑)朝野菜をちぎって、そこで食べるのが一番おいしいですから。たくさんの家の庭や畑で在来種が育ってくれること、それが僕の望みです。
 
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――大三島での暮らしはいかがですか?

 

島で野菜づくりをしている今が、たぶん、人生の中で一番幸せです。
 
都会で「食いっぱぐれるんじゃないか」と心配している人は、ここに来たらいいと思います。暮らしの一部に畑があって、自然と共に生活している。決して僕がすごいのではなくて、島ではみなさん当たり前にやっていることです。

 

例えば、縁側でうとうとして気持ち良いのは、老若男女、文化の違い関係なく、みんな同じだと思うんですよ。今の生活はそういう部分に訴えかけてくるものがありますね。
 
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