島暮らしのよろこび、つくり手としてのこだわり

しまなみイノシシ活用隊代表

渡邊秀典さん/猟師・みかん農家

2016.04.12

大三島で生まれ育った「ヒデさん」こと渡邊秀典さんの毎日は超がつくほど多忙。ヒデさんが情熱を注いでいるのは、島で獲れる野生のイノシシをたくさんの人に食べてもらうことです。それによって、農家さんや猟師さんの暮らしも守れるのだそうです。

 

今、その取り組みは全国から注目を集め、花開こうとしています。島の大地と海に育まれたヒデさんの真っすぐな想いを聞いてみました。

 

――「しまなみイノシシ活用隊」では、どんな活動をしているのですか?
島で獲れた野生のイノシシを仕留めて解体し、主に食用のお肉として販売しています。ジビエ料理の世界ではイノシシは高級肉なので、全国のホテルやレストランからもオファーをいただいて卸しています。また、各地で行われるイベントに出てイノシシ料理を振る舞ったり、狩猟や解体に興味を持っている方のツアーを受け入れたりもしています。

 

イベントでイノシシの半身を丸焼きをするときは、人気ゲームの影響か、若い人たちから「『モンハン焼き』だ!」と言って、とても喜ばれますね。

 

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――活動を始めるようになったキッカケは何ですか?
もともと僕の家はみかん農家なのですが、10年ほど前からイノシシの被害に悩まされるようになりました。これはもう島全体…というか、全国で年間55憶円とも言われるぐらいの社会問題なので、地域全体で駆除をしなければならないんですね。

 

しかし、島の人にはそれぞれの生活があります。持ち出しやボランティアではなく、頑張った分だけちゃんと皆が潤うサイクルを作りたかったんです。それに、いくら人間が「害獣駆除」という名目を掲げたところで、彼らのかけがえのない命を奪っていることに変わりはありません。だったら、せめてその命を大切に使い切るのが礼儀なのではと考え、食肉として活用することにしました。それが始まりです。

 

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――イノシシはおいしいのですか?
それがとってもおいしいんですよ。よく「昔食べたイノシシは臭かった」という方もいますが、きちんとしたやり方でさばけば匂いもなく、むしろあっさりしています。

 

特に大三島をはじめとした島のイノシシは、脂もさらっとしていて柔らかくヘルシーなので、健康を気づかう人にはぴったりだと思いますね。大自然を自由に駆け巡り、森のドングリや(僕らの本意ではありませんが)おいしいみかんをたっぷり食べているのがその理由でしょう。僕も色々ジビエは食べましたが、ひいき目ではなく、本当においしいんです。

 

――革や骨まで活用されていると聞きましたが?
はい。革については、島で革小物ブランド「Jishac(ジシャク)」を営む重信幹広さん夫妻が、温かみのあるハンドメイドのお財布やキーケースに仕立てています。幹広さんは、イノシシ活用隊のメンバーでもあるんです。

 

キー&コインケース

 

また昨年、この島に移住してきて同じくメンバーとなった吉井涼さんは、イノシシの骨を「猪骨(ししこつ)ラーメン」として出汁に用い、レシピ開発をしています。

 

僕たち地元の人間がやってきたことに、新しく島に来た方の新しい発想が加わって、今後どんな風に広がっていくのかとても楽しみです。

 

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――イノシシを扱う上でのこだわりを教えてください。
「猟師」や「野生動物の解体」と聞くと、ワイルドなイメージが浮かぶかもしれませんが、僕たち活用隊のやり方はかなり繊細なんですよ。「いかに新鮮で美味しいお肉を味わっていただくか」に頭と技術を使います。

 

養殖のお肉と違って、野生の動物は個体ごとにかなりのバラつきがあるのですが、それこそ脂のつき具合や健康状態は実際に開けてみるまで分からない。それを見極めて対処するのは、もう経験ですね。遠方から視察いらっしゃった方にも「ここまで徹底しているのは見たことがない」と言われますし、レストランのオーナーさんやホテルの方も喜んでくださっているので、僕としても自信につながりますね。

 

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――島での「息抜き」はどんなことをしていますか?
最近はジビエの業界やメディア、それに同じような課題を抱えた地域の方々が興味を持ってくださっているのもあって、色々と飛び回っているのですが、愛犬レオンとの毎日の散歩は僕にとって欠かせない息抜きでね。あと、春は台(うてな)ダムの桜もきれいですよ。ダムの周りを桜が囲んでいて遠目にも美しく、お花見に来た人たちの楽しそうな声が聞こえてきます。

 

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――今後の夢はありますか?
若手の猟師さんや、解体のスペシャリストをどんどん育てていきたいですね。イノシシの命を大切にいただくためには猟師さんや解体する人の腕が頼りになりますし、その任務を「自立した職業」にするための仕組みを確立させたいと思っています。簡単に言うと、近い将来「若い人たちが憧れる職業」にしたいんです。

 

「獲って」「さばいて」「加工して」「売る」。このシステムづくりが成功すれば、全国各地でイノシシ被害に困る農家さんや地域などで活かしてもらうこともできます。今まで続けてきたこの取り組みをもっと拡大していきたいです。

 

――皆さんへメッセージをお願いします!
僕は大三島で生まれ育ったので、正直「島の魅力」と言われてもピンと来ないのですが、島に移住する方たちが気に入ってくれている様子を見ると「きっといいところがいっぱいあるんだろうな」と感じます。僕も機会があれば、そういう方のお手伝いをしたいと思っています。

 

狩猟や解体に興味がある人も、ぜひ遊びに来てください。我が家でやっているお土産物店「大心(だいしん)」には、イノシシ肉のソーセージなども置いてありますよ!

 

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