島暮らしのよろこび、つくり手としてのこだわり

花澤家族農園・菓子工房 花菓舎(かかしゃ)/農家

花澤伸浩さん、友香(ゆか)さん

2017.05.08

育ち盛りの二男一女と共に、大地にしっかり根を張って暮らす花澤さんファミリー。有機無農薬の柑橘をメインに据えた「花澤家族農園」を営むのは、夫の伸浩さん。いつもユーモアを忘れない気配りの人です。そして、伸浩さんが育てた果実をおいしいお菓子に変身させるのが、元気いっぱいの妻、友香さん。「菓子工房 花菓舎」を運営されています。
 
2006年にこの島に移り住んでから、あっという間に11年。試行錯誤をしながら歩んできた夫婦の軌跡、聞いてみました。
 
――農園の名前に農家さんの苗字を使うことは一般的なことですが、「花澤家族農園」では、あえて「家族」という言葉を入れていらっしゃるのが印象的でした。特別な想いがあるのでしょうか?
 
【伸浩さん】想いとか、そんな格好のいいものではないんですがね。農園を始めるときに、家族をテーマにしたいなというのはありました。
 
きっかけは、以前にテレビで見た街頭インタビューです。子どもに「好きな果物」について質問していたのですが、彼らの答えはパイナップルやメロン、オレンジなど外国産の果物がほとんどで、ミカンやリンゴやカキなど、日本に昔からある果物の名前が出てこなかったんです。かなりの危機感が芽生えました。
 
きっと現代の親御さんたちは、あまり日本の果物を食べさせていないのかもしれません。大規模栽培の外国産は安価ですし、カットフルーツもありますからね。でも、ちょっと寂しいなと。だから、日本の大地で育くんだ味を「舌の記憶」として子どもたちに残してあげたい。家族の営みを通じて、それがつながっていけばいいなぁとか、そんな感じですかね。
 
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▲4~5月ごろが旬の「なつみ」。温州ミカンをベースとしながらも、マンダリンオレンジ系の濃厚な甘さが口いっぱいに広がる。
 
ロゴ
▲花澤ファミリー全員が登場する農園のシンボルマーク。長男の椋成(りょうせい)くん(13歳)、次男の柊哉(しゅうや)くん(9歳)、末っ子の梓奈(あずな)ちゃん(5歳)とみんなこれからが楽しみ。
 
――移住先に大三島を選んだのは、どんな理由からですか?
 
昔から私の農業のモデルとなっているのは、大学卒業後にオーストラリアの住み込みで研修を受けた有機農業のスタイルです。養鶏で出る糞などを畑の肥料にする循環型の農業で、虫や微生物の力を借りる自然栽培をしていました。
 
同じかたちを日本でも実践するには、瀬戸内の気候が一番理想的だったんですよ。年間降水量が少ないので、害虫の被害が起きにくく、農薬を使わないやり方には合っているんですね。農園では果物のほかにも野菜や卵、お米も扱っています。
 
1M5A1304▲移住前は、海外農業研修を行う公益社団法人に勤務。ドイツなどで日本人農業研修生のサポートをしていたそう。
 
夫婦で移住を決めてからは、瀬戸内海の中でも、愛媛県の中島や香川県の小豆島など色々な島を見て回りましたが、一番縁を感じたのが大三島でした。妻の実家が近く、また島内に同世代の農家さんが多かったのも理由かな。なんとなく「ここでならやれる」と確信しましたね。移住を決めた当時は、長男がまだ2歳でした。本当にドタバタしましたけど、今ではいい思い出です。
 
――花澤さんのところでは、加工品事業として手づくりのお菓子にも取り組まれていますね。このラムネ菓子、とっても口どけがよくてレモンピールの香りがたまりません!
 
1M5A1315_fx▲(右から時計回りに)グラノーラ、パウンドケーキ、ビスコッティ、ラムネ。全てに農園で育った果物がトッピングされている。ラムネは、あまりにおいしかったので記者がつまみ食い。
 
【友香さん】ラムネ菓子はよく「珍しい」と言われます。でも、砂糖やコーンスターチなどで、昔ながらの作り方を実践しているだけなんですよ。そこに生のレモン果汁を加えることで、フレッシュな風味が生まれます。強いて言えば、加熱のとき、火加減のコツをつかむまでには苦労したかな。
 
うちの自然農法でつくった「島かんきつ」は、その果皮まで安全においしく食べられます。実は皮には、実の部分より多くの有用成分(ヘスペリジンやβ-クリプトキサンチンなど)が含まれていて、旨み成分もたくさん入っているんですよ。それを活かして、ジュースやコンフィチュール、ジャムもつくっています。スイーツに欠かせない鶏卵も自家製です。
 
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▲好奇心溢れる友香さん。「農業高校で畜産を学んでいたこともあって、実は羊を飼いたいんですよ。夫は“いらない”って言っていますけど(笑)」。
 
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▲加熱したシロップで何度も漬けると、柑橘の甘みが増すらしい。忙しい毎日を縫って、試作を重ねる。
 
――花澤さんの畑では、化学の農薬や肥料を使わない「有機自然栽培」にこだわっています。子どもたちの口に入ることを考えての選択なのでしょうか?
 
【伸浩さん】そうですね。有機栽培は、食べる相手の健康に気を配ることでもあり、それは自分の家族にとっても同じ気持ちでいます。お客さんの中には、小さなお子さんのいるご家庭や若い夫婦、中には「孫に食べさせたい」というおじいちゃんやおばあちゃんもいらっしゃるので、そういう方たちを大切にしていきたいです。
 
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▲午前中は、お客さんへの発送作業。梱包時にはミカンをひとつひとつ丁寧に磨いて送り出す。
 
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▲倉庫で追熟されるたくさんの柑橘たち。ここから全国に飛び立っていく
 
――今後の展望はありますか?
 
僕たちが新しく何かを始めるというよりは、今築いてきたものを次の世代につないでいきたい。そういう時期に来ていると思います。これから10年が本当の勝負です。
 
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▲撮影の合間も、掛け合い漫才のように仲の良い二人。島の兄さん、姉さんとしてこれからもよろしくお願いします!