文化庁支援事業

平成27年度文化庁地域の核となる美術館・歴史博物館支援事業

大三島を日本でいちばん住みたい島にするプロジェクト

本事業は、今治市伊東豊雄建築ミュージアムのある大三島の文化の発信や観光の振興を通じて、島全体を元気にすることによって、
島に暮らす人々が未来に希望をもって暮らし、Iターン、Uターン、Jターンで移住してくる人にも魅力ある島づくり、地域づくりを目指している。
2015年は、島の魅力、食、国際化、瀬戸内ネットワークの4テーマを掲げ、
大三島内外の人々による「大三島を日本でいちばん住みたい島にする」ためのトークセッションを実施した。

  • 1 車座しまなみトークのタイトル通り、膝を突き合わせて熱気ある討論が行われた
  • 2 意見交換を交わす梅原真さんと伊東豊雄さん
  • 3 トーク後には懇親会も兼ねたバーベキューで地元の食材を堪能
  • 4 木造校舎の廊下に七夕飾りが

vol.1

第一回 ワークショップ「車座しまなみトーク!夏の会」

開催:2015年7月3日と4日
場所:大三島ふるさと憩いの家

2015年7月3日と4日の2日間、大三島ふるさと憩の家にて「車座しまなみトーク!夏の会」が開催されました。7月3日には「大三島の魅力を語ろう」、7月4日は「大三島の食の恵みを語ろう」のトークセッションに続き、高知を拠点に活躍するデザイナー、梅原真さんが「絶体絶命のデザイン」をテーマに講演。会場に並べられた座布団が全部埋まるほどの熱気のなか、登壇者と会場の参加者の皆さんによる活発な意見交換が行われました。

part01

車座しまなみトーク!夏の会「大三島の魅力を語ろう」2015年7月3日(金)15:00ー17:00

大三島の魅力って何だろう?

地域の人たちが一体となる祭り、貴重な動植物が生息する里山、歴史ある大山祇神社と参道、しまなみの美しい自然や光などを語り合いました。なかでも印象的だったのは、かつての大山祇神社の参道の思い出。西瀬戸自動車道(しまなみ海道)開通以前、多くの参拝者は宮浦港から参道を通って神社を詣で、参道は土産物屋も含む映画館や銭湯など日常的な店も軒を連ねて活気に満ち溢れていたということです。また、大三島の伝統である祭り、なかでも宗方地区の櫂伝馬は、3つのチームに分かれ老若男女が一つとなって豪快なレースを行う一大イベント。宗方に限らず、大三島では13ある各集落がこうした祭りを通して、今でも強い絆を守っています。そして、登壇者の多くが開放的で明るい、人情に厚い「人々」こそが、大三島の最大の財産であると語りました。

登壇者のコメント
●小笠原享さん(今治市教育委員会文化振興課)
実家は参道の牛乳屋で、子どもの頃よく高校生がパンを買いにきていたのを覚えています。たくさんの参拝者がこの道から詣っていた頃の賑わいを取り戻せたらと思います。
●田村信生さん(新居浜南高校教員)
大三島分校に勤務していた9年間、生徒たちと参道調査を行い、参道案内ツアーをつくりました。部活や学校行事にも島民の皆さんが協力してくださる、大三島は何よりも人が魅力です。
●藤原幸子さん(旅館茶梅)
1776年の江戸期、1884年の明治期、1976年昭和期、そして1991年の平成の記録をたどることによって、門前町としてのかつての新地町の様子や、風景も大きく変貌していることがわかります。
●小澤潤さん、菅則子さん(大三島の自然を守る会)
大三島は生物多様性がとても豊かです。それは塩田、湿地、干潟、田んぼなど、人間の手で世話をされている自然があるからです。ホットスポットである大三島の自然を守り伝えていきます。
●須永泰由さん(サイクリスト、伊東塾塾生)
自転車で島を走っていると適度な坂道と風の気持ちよさを体感できます。時間の経過によって光が移り変わり、夕日の美しさは言葉では語れません。
●藤原善和さん(宗方住人)
四国百名山のひとつである鷲ケ頭山も大三島の魅力のひとつです。さまざまなルートがあり、初心者から上級者まで楽しめます。山を登っていると、日本海側から瀬戸内に至るやまなみ・しまなみルートが整備されて、県外からの登山客が増えていることを感じます。
●市川貞男さん、藤原正富さん、大内正清さん(宗方住民)
櫂伝馬や祭りは、集落の絆を深めます。最近では有志で『ふるさと通信』を発行していて、島外に居る人とも交流を続けると共に、Iターン家族も積極的に受け入れています。
●今村有佐さん(肥海住民)
2人の子育て中です。ここの海、山、そして畑付きの築89年の一軒家に惹かれて引っ越してきました。最近は天然塩づくりに挑戦し、昔の人がどれだけ苦労して塩を手に入れていたのかを体感しました。
●西原昭廣さん(水墨画家)
以前は、外洋船に乗って世界各地を巡っていていました。大三島に戻ってきて改めて感じた島の魅力や歴史を水墨画の紙芝居にして後世へ伝える活動をしています。
●太田佳代子(建築キュレーター)
大三島に初めて訪れた時、大山祇神社のたたずまいと巨大な楠に惹きつけられました。瀬戸内海で特別な地位を占めていたこの島の歴史と物語を掘り起こしたいと思っています。

 

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part02

車座しまなみトーク!夏の会「大三島の食の恵みを語ろう」2015年7月4日(土)10:00ー12:00

大三島の食の恵みとは?

今回は島外からのIターン、Uターンで現在農業を営んでいる方々にもご登壇頂きました。そんな経緯を持っているからこそ、大三島に生まれ育った根っからの島民の方にとって当たり前の物事も違った視点でとらえ、貴重であると感じられると考えました。Iターンの農家の方々に共通しているのは、「本気で生きたい」「自然と共に暮らしたい」「島の環境を守り伝えたい」「人とのつながりを大切にしたい」という意識。さらに、こうした気持ちを共有できる仲間と連携しながら、自分が納得できる、安全・安心な農作物や加工品を、それを求める顧客に確実に届けるという活動を一歩一歩実行していることです。こうした姿勢は、20世紀の効率最優先だった農業とは異なる新しい仕組みづくりにつながっていくことでしょう。

登壇者のコメント
●林豊さん(柑橘農家、養蜂家)
大三島の魅力は「採って、食べて、暮らす」というライフスタイルにつきます。釣りや山菜採りだけでなく、今は誰も食べない海藻をてんぷらにするなど、食材や料理法の発見も楽しんでいます。
●井上正道さん、貞子さん(KiKi’s苺ハウス)
私たちが小さい頃はいろんな味を体験しながら、体で知識を得ていました。最近の野菜はえぐみや苦みなどの味の多様性の大切さが失われていることが残念です。老後は都会で自由に過ごしたいなどと考えたこともありましたが、母の死を通して島での絆の有難さに触れて、ここで生きて行くことに誇りを感じています。
●鍋島悠弥さん(柑橘農家)
盛地区で農家民宿の開業を目指しながら、地域と一体となった教育旅行受入などのグリーンツーリズムにも関わっています。盛は祭も大きな魅力で、人と人を繋ぐ大切な行事であると感じています。
●越智敬三さん(柑橘農家、恵回会)
恵回会は相互研鑽による栽培技術の向上を目的にした組織です。僕は13年前に帰島してミカン農家になって以来品質管理を徹底するなど工夫をして、お客さんに喜んでもらうことで販路拡大してきました。
●花澤伸浩さん(柑橘農家)
家族の幸せを考える農業をモットーに、柑橘類を自然農法で生産、直販しています。コンフィチュールやジュース等も自家農園のものと、できるだけ愛媛産のものを使用して加工販売しています。
●吉川努さん(野菜農家)
神奈川県からIターンしてきて、種の採れる在来種の野菜をつくっています。昔の農家は種採りは当たり前、それを親から子、子から孫へとつないでいました。そんな農法を実践しています。
●超智資行さん(べじべじ自然農園)
1998年に大阪から移住して、自然農法を始めました。いま私の園地では、野鳥が子育てするまでになりました。「人と自然と農業と」をスローガンに取り組んでいます。
●川田祐輔さん(大三島でワインを造る会)
6月にワイン造りのために移住してきました。シャルドネとヴィオニエという品種を育てています。成長も順調なので、3年後に委託醸造、10年後には自社生産で大三島ワインができる計画です。
●渡邉秀典さん(しまなみイノシシ活用隊)
大三島では農作物を食い荒らすイノシシが年間800頭ほど捕獲されています。そのため、イノシシ活用隊を組織して、加工肉を製造したり、解体ツアーを企画して、命をいただく大切さを伝える活動も行っています。
●関康子さん(デザイン編集者)
ここでは当たり前の日本産レモンは東京では高価です。けれど安全なので購入して、自宅でレモン塩を作って料理を楽しんでいます。島の特産品や料理を楽しめるレストランがあるといいなと思います。

 

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part03

車座しまなみトーク!夏の会「絶体絶命のデザイン」2015年7月4日(土)14:00ー16:00

「車座しまなみトーク!夏の会」の締めくくりは、高知を拠点に活躍するデザイナー梅原真さん。梅原さんの仕事はきれいなポスターやお洒落なパッケージをデザインするだけではありません。ある意味で患者の悪いところを治すドクター、あるいは新しいビジネスを育てるアントレプレナーと言えるでしょう。梅原さんにとってデザインとは、「問題解決をするためのソフト」なのです。以下、「絶体絶命のデザイン」をレポートしましょう。

一本釣りの藁焼きたたき
高知の鰹漁は燃料の高騰、漁獲高の低下、一本釣りという非効率な漁法から、廃業の危機に。非効率を逆手にとって、手間ひまのかかって無駄がない「藁焼きたたき」に新しい価値を見いだした。
砂浜美術館
高知県黒潮町にある全長4キロに及ぶ美しい砂浜を大型リゾート地に開発する話が持ち上がった。砂浜を守りたいという気持ちから協力者を募り、Tシャツを吊ってひらひらと見せる「Tシャツア―ト展」を開催し、今年で26年目。美しい砂浜の風景を守り続けている。
四万十茶プロジェクト
梅原さんは、以前四万十川中流域の十和村で暮らした。洪水の時には川の流れに埋もれてしまう「沈下橋」が不便さに代える豊かさを教えてくれたという。十和村は実はお茶の産地だが、多くを静岡に出荷していた。生産者を感じる「手摘み」をキャッチフレーズに商品化を提案。茶畑での営みがある美しい風景を保存できている。
四万十地栗プロジェクト
高知県十和村は栗の産地だったが、輸入栗に押され衰退していた。地物であることを強調する戦略をたて、「しまんと地栗」のブランドで栗製品を開発販売。現在はカフェも建設し、十和村の主要産業に成長した。
四万十新聞バックプロジェクト
サスティナブルは大きなテーマ。梅原さんはビニール袋ではなく、古新聞とでんぷんのりだけで丈夫なバックを提案。この活動は注目されて、ベルギーやスウェーデンにも飛び火し、東日本大震災の被災地の復興プロジェクトの一つにもなった。
離島ブランドプロジェクト
島根県壱岐郡海士町では梅原さんが提案した「ないものなない」をキャッチコピーに町のアイデンティティを確立しつつある。「島にないものを望んでも仕方ない」、「これだけ豊かな自然や人材があるではないか」という、相反する意味が込められている。
関康子さんから
このように梅原さんの仕事の基本は「考え方をデザインする」「その土地の力を最大化する」ということ。「大三島を日本でいちばん住みたい島にするプロジェクト2015」にも大きな示唆を与えてくれるものでした。
伊東豊雄さんから一言
梅原さん流のデザイン思考は大三島でも大いに参考になると思います。コミュニケーションの大切さと徹底した現場主義に感心しました。私も大三島で島の方々と一緒に頑張っていきたいです。
梅原 真 | うめばら まこと
高知市生まれ。一次産業がしっかりしない国はユタカではない。地域の「漁業」「農業」「林業」に「すこ〜〜〜しデザイン」を加え、「あたらしい価値」を作り出すことによって、風景とともにその土地が持つ可能性を持続させるオモシロサをシゴトとしている。「漁師が釣って、漁師が焼いた」のキャッチフレーズでプロデュースした「土佐一本釣り・藁焼きたたき」。「ひらひらします」をコンセプトにした砂浜美術館。「ないものはない」海士町など。武蔵野美術大学基礎デザイン学科客員教授。

 

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  • 1 学生たちが切り取った大三島の印象 島の建物素材に着目(エリン・クエバスさん)
  • 2 神社の階段に注目(リアン・スエン)
  • 3 ハーバード大学デザイン大学院の学生と島民との意見交換は言葉の壁を超えた充実したものだった

vol.2

第二回 ワークショップ「車座しまなみトーク!秋の会」

開催:2015年9月3日
場所:大三島ふるさと憩いの家

この秋、建築家の伊東豊雄がハーバード大学デザイン大学院の授業を受け持つことになりました。選抜された学生12名が日本を訪れ、日本の文化や風土を体験しながら、大三島を舞台にこれからの建築のありかたやライフスタイルについて考え、提案しようという授業です。 大学院生たちが大三島を訪れた2015年9月3日、大三島ふるさと憩の家にて「車座しまなみトーク!秋の会」を開催しました。今回は、「大三島の魅力を語ろう・国際編」です。大三島の島民とハーバード大学デザイン大学院の国際色豊かな学生12名が、島の自然や農業、文化や生活について島の人々との意見交換を行いました。島の人々にとっては、初めて島を訪れた国際色豊かな若者の視点が新しい発見につながり、学生にとっては日本の自然や生活を知る貴重な機会になったはず。その模様をデザイン編集者の関康子さんにレポート頂きました。

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車座しまなみトーク!秋の会「大三島の魅力を 語ろう・国際編」2015年9月3日(金)午後

当初2時間の予定が3時間に及んだ「車座しまなみトーク!秋の会」。建築キュレーターの太田佳代子さんがMCを務め、英語と日本語が飛び交い、終始和やかな空気のうちに進行しました。ハーバード大学院生の意見に対し、島民の方々からは「ハッとすることが多かった」「短期間に島をよく見ている」などの感想があがり、一方、学生たちは島民の皆さんの生の声からさらに島の農業や文化の理解を深めることできたようです。締めには、委員長である伊東豊雄さんから「もっともっと島全体を巻き込みながら、こうした交流活動を継続させたい」とのコメントもありました。

●ハーバード大学院生から島民

“大三島で最初に心に響いたこと”

 

●エリン・クエバスさん(アメリカ、カリフォルニア出身)
私は島を巡って建物の壁や屋根を構成する木材や石材などの素材や、その組み合わせ方に興味をもちました。こうした文脈のなかに独特の文化があるように思います。
●エリン・オータさん(アメリカ、カリフォルニア出身)
美しい海に囲まれた大三島で印象に残ったことは、海面の色と光です。そこから水面の深さや広さ、空気の密度や湿気を体感できて、思わず瞑想をしたくなりました。
●ヨン・ウク・キムさん(韓国出身)
私は参道と「みんなの家」です。参道では植栽などを通じて、島の人のありのままの生活を垣間見ることができました。そこに人工物と自然との不思議な境界を感じました。
●エレナ・ハスブンさん(アメリカ、カリフォルニア出身)
私も参道です。参道には人が住んでいない家屋があります。生命力が旺盛な植物が空き家を覆い尽くいる光景を見て、この島独特の自然と廃墟の共存を見ました。
●ファビオラ・グスマンさん(中米、プエリトルコ出身)
私も参道です。人がいない道で赤ちゃんを抱いてあやしているお年寄りに会いました。そんな光景を見て、ここでいったい何が失われてしまったのか?と考えました。
●ススコット・マーチ・スミスさん(アメリカ、ワシントンDC出身)
生まれて初めて参拝し、大山祇神社の神聖な環境を堪能しました。しまなみ海道開通が島を変えたと聞きましたが、時間的、空間的な変遷を神社の入り口で体感しました。
●アンナ・ファルベロさん(スペイン出身)
私はしまなみ海道の風景です。島々と海、それをつなぐ美しい橋が織りなす風景に、私は海と大地の恵みを感じ、この恵みで生きている幸せな人々に思いをはせました。
●リアン・スエンさん(アメリカ、カリフォルニア出身)
私は大山祇神社の石段と大木です。それらには「近づきやすさ=近づきにくさ」、「新しさ=古さ」の境界があるように感じ、その絶妙なバランスがとても魅力的でした。
●ブライアン・ヤンさん(アメリカ、カリフォルニア出身)
大三島の位置、島と島のつながり、13の集落のつながりなどに興味をもちました。とくに、大三島と対岸の島々が海面(水面)によってつながっていることに惹かれました。
●メイリス・メイヤーさん(フランス出身)
私は元学校が宿泊所になった「ふるさと憩の家」の空間です。とくに廊下を境に「日なた=公」と「日陰=私」という境界があり、廊下が中間的な役割を担っていると思います。
●ビン・チューさん(中国出身)
私は「みんなの家」に、大三島のおもてなしの心を感じました。現在改装中ですが、空間は木製で静かで神聖な印象なのに、ひょっと誰かが現れるような不思議な感じです。
●ショーン・チアさん(シンガポール出身)
私は参道で剣道の竹刀を持った人に出会って少しだけ交流できました。そこで、島民の人が、外国人が島に来ることに対してどう思っているのかを知りたくなりました。

 

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●島民からハーバード大学院生

 

超智資行さん(べじべじ自然農園)
「人と自然と農業と」
1998年に大阪から移住し、土地探しから始めました。現在は自然農法で野菜60品種、柑橘5品種を世話しています。農産物加工品も造っています。土が良くなると、いい草が茂り、ミミズなどの小動物が住み着き、野鳥までもが畑で卵を産むようになりました。自然の中で育った作物は、健康で害虫もつきにくく、とてもきれいで美味しいです。 経営の中で、循環型農業にも取り組んでいます。鶏を飼って残り野菜を餌にし、鶏糞と柑橘の剪定枝チップで肥料にして畑に返しています。島の豊かな自然の中で、真の豊かさを求める移住仲間がここ数年で増えました。「あ〜幸せ」って思える、島暮らしを農業の分野で取り組んでいます。
花澤伸浩さん(柑橘農家)
「柑橘農家の一年」
農業がしたくて、東京からIターンで大三島に来ました。今は16カ所に分かれていますが、2ヘクタールほどの土地でカラマンダリンを中心に柑橘類を自然農法で栽培しています。当初は苦労しましたが、8年目くらいから、ようやく満足できる作物が収穫できるようになりました。今では土地も肥えてきて、てんとう虫などの良い虫が害虫を食べてくれます。日々、自然の恵みのありがたさを実感しています。 作物はジュースにしたり、妻がコンフィチュールやクッキーなどに加工したりして、産直イベントなどで直接販売しています。ビニールハウスでは子どもたちと一緒に野菜の収穫を楽しんでいます。僕も越智さん同様、子どもたちに田んぼの授業も行っています。
小笠原享さん(今治市教育委員会文化振興課)
「大山祇神社参道の歴史」
実家が大山祇神社の参道で店を開いていたので、子どもの頃は参道が遊び場でした。一番の思い出は、春祭り。たくさんの参詣者で賑わい、いろいろな出店が集まってきました。今では珍しいぬいぐるみの出店が毎年実家の隣に来ていて、少し汚れた人形をもらった記憶も懐かしいです。 昔、大山祇神社への参詣は船で港について、そこから参道を歩いて行くのが普通でした。当時の春祭りには1日4万人もの参拝者が参道に溢れて、海に落ちてしまう人がいたほどだと聞いています。現在は、御串山沿いの参道横が埋め立てられて風景は一変しています。また、しまなみ海道ができたことで参道の人通りは激減しました。けれども何とかかつての賑わいを取り戻したいと願っています。
藤原善和さん、市川貞男さん、藤原正富さん、大内正清さん(宗方地区住人)
「神事 櫂伝馬」
大三島には13の地区がありますが、なかでも宗方は明るく、開放的な性格の人が多く、Iターンの人たちを受け入れる心の広さもあると感じています。そんな宗方住民の誇りは、「神事 櫂伝馬」です。200年以上の歴史があると言われていますが、過疎高齢化でしばらく途絶えていたものを、昨年15年ぶりに復活することができました。これは宗方地区が3つに分かれて、10メートル近い伝馬船に、舵手、漕手、太鼓打ち、子供の剣櫂、梵天など16名が乗船して、海を往復して船をぶつけ合い、操船技術を競う勇壮な神事です。島を離れた宗方出身者も集結してくれて、どうにか復活することができました。これを機に有志で『ふるさと通信』を発行し、島内外の人々と交流を深めています。
  • 1 総括となる今回は多くの観衆が集まった。
  • 2 前半ゲストのプレゼン
  • 3 伊東さんと岡田さん
  • 4 前半ゲストによるセッション

vol.3

第三回 ワークショップ「車座しまなみトーク!冬の会」

開催:2016年1月24日
場所:上浦歴史民俗資料館

2016年1月24日、大三島の上浦歴史民俗資料館にて「車座しまなみトーク!Part5 冬の会 日本でいちばん住みたい島にするために」が開催されました。今回は1年間取り組んできた「大三島を日本でいちばん住みたい島にするプロジェクト2015」の総括です。第一部では大三島だけでなく瀬戸内海全域から独自の方法で地域づくりに取り組んでおられる方々にご参加いただき、さらに広い視野で大三島、今治市、さらに瀬戸内海地域の未来についての意見交換を行いました。第二部ではFC今治オーナーの岡田武史さんと本プロジェクトの代表、建築家の伊東豊雄が地方の未来について語り合いました。その模様をご報告いたします。

part05

瀬戸内・車座トーク!前半「住みたい島にするために」1月24日(日)13:00〜15:30

瀬戸内海に浮かぶ島々から、独自のビジョンを掲げ活躍している方々をお招きして、それぞれの活動をご紹介いただいた後、大三島の住人3名を交えて「住みたい/住み続けたい島」についてディスカッション形式で語り合いました。進行は今治コミュニティ放送株式会社FMラヂオバリバリパーソナリティの山内奈々さんが担当。瀬戸内中に発生している点としての活動が、近いうちにつながって線となり、さらに広がって面となり、大きなうねりとなって日本を変える原動力になる予感がする内容となりました。

●田中佑樹さん(たなか・ゆうき) NPO法人農音代表理事 [愛媛県中島]
20代は首都圏で音楽活動をしていたが、もっと違った何かができないかとミュージシャン仲間と中島に移住。中島は、かつて10,000人いた島民が今や2,700人、さらに65才以上が60%を占める超高齢の島。理屈よりも、とにかく人が増えれば中島が元気になるのではないか?と移住促進や就農者を増やす活動を実施。農業と音楽を無理やり結びつけた見せ方でPRし、「面白いやつらが暮らしている島らしい」と人が人を呼び、5年間で外国人を含む34人が移住した。2015年には第5回地域再生大賞記念賞を受賞。
●藤崎恵実さん(ふじさき・めぐみ) 島キッチン店長 [香川県豊島]
2010年瀬戸内国際芸術祭をきっかけに、故郷である豊島にUターンし、「食とアート」で人々を繋ぐ出会いの場として計画された島キッチンのプロジェクトに「こえび隊」として参加。島の食材を使った丸の内ホテルのメニューは元より、島のお母さんたちが笑顔で働く姿が人々を惹き付ける。最近は地域のために何かできないかと、一人暮らしのお年寄りの家におかずを配達したり、地域の方々の誕生日会などイベントの企画、一部ずつ手渡しで配る手作り新聞の発行など地道に活動を積み重ね、島のコミュニティの拠点になりつつある。
●松嶋匡史さん(まつしま・ただし) 株式会社瀬戸内ジャムズガーデン代表 [山口県周防大島]
高齢化率が日本一という周防大島に、妻の実家がお寺だった縁で8年前にIターンしてきた。パリで出会ったジャムと島の農産物を結び、「この島でしかできないジャムづくり」をモットーに、季節や素材の組み合わせに創意工夫を凝らして150種類以上を生産。島に既にある作物は農家さんから購入してジャムを作り、島に還元する仕組みを築く。現在は島の仲間とジャムを使ったスイーツなどの商品開発やカフェ経営などの事業も拡大し、雇用の創出にも貢献。地域の繋がりがジャム屋を支え、地域復興の要となっている。
●菅 森実さん(かん・もりみ) 瀬戸内しまのわユース事務局長 [愛媛県今治市大三島]
2011年東日本大震災の復興支援ボランティアに参加、人々のきずなや地元の大切さを再確認し、上浦町にUターン。自身は、島の歴史を発掘する歴史勉強会、自然の豊かさを満喫する天文会、海岸のクリーンアップなどの地元の活動も積極的に行っている。また、「しまのわ博覧会2014」をきっかけに知り合った仲間たちと瀬戸内しまのわユースを立ち上げた。継続して活動を行うことで、少しずつ「しまのわ」が育っていることを実感している。
●瀬戸洋樹さん(せと・ひろき) NPOしま・なみ事務局長 [愛媛県今治市大三島]
伊東建築塾の塾生として大三島に関わるようになり、2014年に移住した島民2年生。現在は研修生として農業を学びながら、NPOでは移動手段に困っている高齢者への交通サービスを行っている。また、大山祇神社参道での参道マーケットや大三島みんなの家でのクリスマス会などの企画運営にも携わる。「農業」「福祉」「交流」の3本を柱に住民が暮らして楽しい地域づくりを念頭に活動している。
●渡邉秀典さん(わたなべ・ひでのり) しまなみイノシシ活用隊代表 [愛媛県今治市大三島]
島内のイノシシが増えて、柑橘や野菜などの農作物の被害が年々拡大している。そこで農家が仕掛けた罠にかかったイノシシを新たな資源に蘇らせようと、仲間とともにしまなみイノシシ活用隊を結成した。現在は血抜きなどしっかり処理を施した精肉の販売、肉や皮を使ったソーセージなどの加工品の製造、骨でスープをとった猪骨ラーメンなどの開発を手掛け、着実に販路を拡大しつつある。
●山内奈々さん(やまうち・なな) 今治コミュニティ放送株式会社FMラヂオバリバリ(FM78.9MHz)[愛媛県今治市]
豊かな自然、美味しい食べ物、あったかい人柄。島や地域の魅力を大切にしたライフスタイルの実現と継続を目指すには何が必要かをディスカッションを通じて語り合いました。有益な知識やノウハウの交換、島同士のネットワーク強化、瀬戸内海圏としての意識向上など「住みたい/住み続けたい島」について、共に考え語らうことができ、貴重な機会となったと思います。共通の思いを持つ仲間たちは、今後よきライバルとしても深い絆で結ばれあい、これをきっかけに、何か新しいコラボレーションが生まれそうな予感もします。全国からいろんな人を巻き込んで島の「ファン」をじわりじわりと増やしていってもらいたいです。まずは、知ってもらうこと。そして実際に訪れてもらうこと。私はラジオを通して少しでもそのお手伝いができればと考えています。

 

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車座しまなみトーク!冬の会 後半「未来につなぐ地方の可能性」1月24日(日)15:30〜17:30

岡田武史 氏

(株式会社 今治. 夢スポーツ代表取締役 [愛媛県今治市])

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伊東豊雄 氏

(NPOこれからの建築を考える 伊東建築塾理事長 [愛媛県今治市大三島])

 

 

前半が瀬戸内にしっかり根を生やして活動をしている20~40代の方々による「地域づくり」がテーマだったのに対し、後半はサッカーW杯日本代表監督を務めた岡田武史さん、世界中でプロジェクトを手ける建築家の伊東豊雄の二人が登壇し、関康子さんの進行により、世界・全国的視点から「地方の未来」について語っていただきました。

●今治市、大三島との出会いーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
岡田
サッカー選手は型にはめてはいけないと考えていたが、サッカー最強国であるスペインの選手たちが共通した型を会得した上でプレイしていることを知り、柔軟性のある少年期から自分が理想とするサッカー教育を行いたいと考えるようになった。そして選んだのが今治市。自然や風土、町の規模、人々の気質が気に入って2014年に今治.夢スポーツを設立。現在は東京と今治だけでなく、全国を走り回る日々。
伊東
2011年に大三島に伊東豊雄建築ミュージアムがオープンしたのがきっかけ。現在は、同じ年にスタートした伊東建築塾の塾生たち、島の有志の方々とともに、大山祇神社参道の復興、島の新産業につなげたいワイナリー設立など、島を元気にする活動を行っている。まだまだこれからだが、興味を持って支援して下さる方々が確実に増えていると実感している。
●これからの都市と地方の関係ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
岡田
すべてを捨てて移住するというのはハードルが高い。自分はより良いサッカーを求めて、国や地方関係なく生活している。だから今治市にすべてをささげるというよりも、ここでしっかり成果をあげたいという意識が強い。オール・オア・ナッシングではなく、もっと柔軟に都市も地方もお互いの良いところを活かしながら関係性を深めていけたらと考える。
伊東
「地方創生」という言葉には、都市の地方に対する上から目線が感じられるので、あまり好ましくないが、ここまで行き詰っている日本を救うには、地方が元気になってくれるしか方法がないと考える。近々、大三島に第二の家をつくって、東京と大三島を行き来する生活を始めたい。それは大三島の豊かな時間の中で、ゆっくりとこれからのライフスタイルについて思索したいと考えるからだ。「地方か都市か」ではなく「地方も都市も」と考えたい。
●二人で一緒にーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
岡田
スポーツの力を活かして、今治市をもっともっと元気にしたい。まずはFC今治を地域に定着させ、できれば拠点となるスタジアムをつくり、ジムや関連施設なども併設し、トップアスリートも招聘して、日本中、世界中からスポーツを愛する人々が集うまちになったらうれしい。そのためには人々が直接出会える「場」が必要だ。
伊東
私も大三島に様々な人々が集えるシェアハウスや小さなホテルをつくって、いろいろな人に島を訪れてほしい。人が集うことによって、食をはじめとした新しい文化が生まれ、発信されていくことに期待したい。岡田さんと組んで今治市、瀬戸内をもっともっと活気づけていきたい。
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2015年より夏の会、秋の会と開催してきた「車座しまなみトーク!」も、Part5 冬の会をもって終了します。本プロジェクトの総括として、バイリンガルの広報冊子「大三島ナビゲーター」を発行し、さらには大三島情報のプラットフォームとなるウェブサイト「Omishima.net」を制作中です。今後も今治市伊東豊雄建築ミュージアムを拠点として、大三島を日本でいちばん住みたい島にするプロジェクトは継続、発展していきます。